Kプログラム アニメーション作家「細山広和」の視点

アニメーション作家「細山広和」が、アニメーション特集14作品を選びました。
各作品ごとに、選んだ理由、観るポイントなどを解説しています。
Kプログラム アニメーション作家「細山広和」の視点
細山広和の視点

1_彼女と彼女の猫
「君の名は。」のヒットの記憶も新しい、新海誠氏の初期作品。選者の初見は第12回CGアニメコンテストと東京地区の大学アニメ研のイベント「アニメーション研究会連合・上映会」でしたが、当時も絵の美しさと構成力の高さで観客や審査員からの評価が高く、また本人も、映像制作が未経験ということも話題となりました。猫の視点で淡々と語られる彼女の生活が、極力情報を排したモノクロ画面の中で第三者的に描かれるスタイルが、観客の心に届く普遍性を生み出しています。

2_フミコの告白
失恋→疾走→大騒動という、四コママンガ的な一発ネタを、小気味好いテンポと確かな作画技術でまとめ上げたギャグ掌編。あまりに続く急な坂道と高低差に、「こんな街あるかよ」とのツッコミも誘いつつ、そんな瑣末な事も、走って走って突っ走る、フミコの怒涛の想いとアクション(とパンツ)によって払拭されます。若い勢いが快感を生む、現在プロの監督としても活躍している石田祐康監督が京都精華大学・マンガ学部アニメーション科の在籍時代に制作した作品です。

3_午後の授業
誰もが経験する、昼食後の授業の猛烈な眠気…これをイメージで捉え、主人公「ぼく」の頭のメタモルフォーゼ(変形)というアニメーションで表現した、韓国のSeoro Ohさんによる一本。時に激しく、重力と遠心力を感じさせる動きの一方、時折癒し系の動きで安らぎおぼえさせる「船漕ぎ」のアニメは、見た人も多分「ああ、ああ、そんな感じ」と思わず笑みがこぼれるはず。ちなみにSeoroさんの最新作は、横浜市の地下鉄ブルーライン快速運転のコマーシャルで、こちらもイメージ豊かなで楽しい作品になっています。

4_ハロウシンパシー
シナリオアートの音楽に乗せて送る、ご夫婦ユニット「デコボーカル」さんによるミュージックビデオアニメーション。固定のフォルムに囚われない自由奔放な動きをみせる動画と、どこかほのぼのとした雰囲気を持たせつつ、激しい感情をも内包したたくさんのキャラクターたちが、軽快な曲に乗せて所狭しと画面の中を動きます。アニメーションの根源的・原始的な楽しさである「線と色の動き」が作りだす饗宴に身を委ねてみてください。
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5_シングルライフ
家に届けられた不思議なレコードをかけると、曲の流れで時間を行き来できるようになってしまった!。さて私の未来はどんなかな…?という、軽いSFチックな、オランダの作家ユニットのヨブ・ヨーリス&マリーケさんによるショートショート。誰でもわかり易く、かつ歯切れの良いエッジの効いた演出で、第87回アカデミー賞・短編アニメーション部門にノミネートされた一本です。おマヌケなオチは笑えますが、同時にちょっとゾクッとする怖さも兼ね備えた傑作短編です。

6_翼とオール
寂れたボート小屋に一人たたずむ男、これまでの冒険の日々、女性たちとの恋を振り返る…そんなひとりの男の生き様と人生の深みを描いた、ラトビアの作家ウラジミール・レシチョフさんによる短編。女性たちとの出会いと別れ、人生の転機となる様々な出来事が、アニメーションならではの比喩表現と、手描きによる絵画のような美しい画面に映し出され、悲しみの中にも穏やかな気持ちを生み出す、大人のための寓話です。

7_Happy birthday dear daughter
オルゴールの音色とともに、お年を召したご夫婦が登場。その手には沢山のロウソクが灯ったバースデーケーキ…愛娘さんのお誕生日のようです。でもその娘さんは…。ラフスケッチの粗い画面の中に親娘の絆を描いた短編。ドラマの内容は是非本編を見て下さい。監督の前原薫さんはTVアニメの作画監督のほか、アニメーションの教鞭も執っておられます。短編では「愛子ファイティン」といったギャグ作品のほか、戦争の不条理・悲劇を表現豊かに描いた「優しい兵隊」「とおせんぼ」等の佳篇も手掛けています。

8_NETWORKS "Ab-rah"
アップテンポの軽快な曲に乗せて、画面の中で線が何やら動きはじめます。紙にしてはキメが粗く、精緻とは言えない絵ですが、曲のテンションが上がるにつれて、それが何に描かれているのかが明らかになっていきます…ああ!誰もが子供の時に遊ぶ「アレ」だ!…NETWORKSの演奏による疾走感のあるインストゥルメンタル曲と、幼児のラクガキのような原始的な楽しさが垣間見える描画、そして手描きアニメでしか表現できない動画のダイナミズム、三者のテイストが見事に合致し、不思議な視覚と聴覚の快感を生む、吉野耕平さんによる労作で、第14回文化庁メディア芸術祭エンターテインメント部門で審査委員会推薦作品にも選ばれた傑作です。
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9_OK Go "Obsession"
ユニークなPVで知られるアメリカのロックバンドOK Goが、タイの製紙会社「ダブルA」のA4印刷用紙の宣伝も兼ねて制作した、前代未聞の「インクジェットプリンター印刷アニメ」。567台のインクジェットプリンターを用い、印刷内容を制御したペーパーマッピングプロジェクトにより、OK Goのメンバーも巻き込んで観たことのないスケールのコマ撮りアニメが展開されます。映像の中で時々観られる「紙送りミス」も、リアリティを増すアクセントになっていて面白い。OK Goのダミアン・クーラッシュ氏とタッグを組み、この見事な映像を作り上げたのは日本人で数多くのミュージックビデオを手がける田中裕介さんです。なお、使用された紙は全てリサイクルされたそうです。

10_Signal
ある交差点の、特に変化の無いありふれた風景が次々写し出されていきます。ただ一つ、共通点は、中央にポツンと灯る歩行者用信号の青い光…やがて枚数を重ねて行くと、思いもよらなかった怒涛の連続映像に突入していきます。誰もが街角で見かける信号を題材に、圧倒的な物量の映像で迫る、保田紀之さんによるコマ撮りアニメーション。余談ですが選者も同じ発想で信号を撮影してみたことはありますが…とてもじゃないですがここまでのものは到底出来ませんでした。凄いです。

11_アフタヌーン
関係の冷えた夫婦が、言葉も交わすことなく淡々と昼下がりのひと時を過ごしています。突然起きたアクシデントから、二人は再び心の通う間柄に…。ごく普通の日常の一コマを切り出し、粘土板から造形を浮き上がらせて撮影する、素材のマチエールを活かしたコマ撮りアニメで描く、ドイツの作家、イザベラ・プリュシンスカさんによる短編です。映像最後に描かれるおっちょこちょいなトラブルもまた愛おしい。なお、このシリーズには、他にも「朝食」や「夫婦喧嘩」といった短編も作られており、「朝食(Breakfast、2006年)」は広島国際アニメーションフェスティバル2008で木下蓮三賞を受賞しています。

12_手紙の海
コンクリートの壁やアスファルトの路上に現れた濡れ跡が、様々な動きを見せます。やがてその姿は女性や男性、兵隊へと変わり、激しく乱れ始めます。四方八方に拡散していく「濡れ跡」ですが、時間とともにそれらは消えてしまいます…1930年代のスペイン内戦に起きた、大量の手紙が不着になってしまった事件にインスパイアされた作品です。「濡れ跡」の「跡形なく消えてしまう」という特徴を活かし、戦争の狂気と無念さ・儚さを抽象的なアニメーションで表現した、スペインのアーティスト、ルノー・ペリンさんとジュリアン・テッレさんによる作品です。
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13_Tissue animals
一枚のティッシュペーパーが抜き取られます。人の手の中、あっという間に木に変身、続いて小鳥やカエル・・豊かな森の自然の営みを表すかのように、紙は変幻自在に森の生き物たちに次々変化していきます。ティッシュペーパー「nepia」を展開する王子ネピア株式会社が、同社の森林保護への取り組み、思い、そして森の大切さを多くの人に知ってもらうきっかけにしたい考えのもと企画されたブランディングムービーで、演出・新井風愉さん、アニメーター・おーのもときさんの手による楽しいコマ撮りアニメ。本当に「森に、ありがとう。」!!

14_サウス・オブ・ザ・ノース
北極近く(シベリアとアラスカ)の二人の漁師が、ふとしたことで海上で出会い、いがみ合っているうちに鯨に食べられ遭難してしまいます。さあ、二人は故郷に戻ることができるのか!?…アニメーション特集のトリを飾るのは、14分という時間に笑いありアクションありの、ドラマとアクションをちりばめた、ロシア発の傑作短編アニメです。選者は2004年の広島国際アニメーションフェスティバルで初見でしたが、会場観客席から笑いと拍手が巻き起こったのを覚えています。この年の観客賞を見事に射止めました。なかなか観る事のできない一本ですのでお見逃し無く!!本編も愉快ですが、二人のその後を描いたエンディングも見逃せません。



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